①自己開示がしやすい
―atGPジョブレは、「うつ症状コース」「発達障害コース」「統合失調症コース」「聴覚障害コース」「難病コース」など、事業所ごとに障害や症状が決まっていることが他の就労移行支援施設にはない特徴のひとつですね。
そうですね、事業所別に利用者の障害や症状を分けているのは珍しいと思います。
atGPジョブレは、精神障害のある方の就労支援から始まり、様々な精神障害をお持ちの方が利用していました。でも、うつ病、統合失調症では症状が異なりますし、発達障害もまた特性が異なります。同じ精神障害でも、障害や症状に応じた支援の仕方が必要だと感じたんです。
そこで、事業所ごとに障害や症状のコースを設け、それぞれの特性や症状にあわせた支援を始めることになりました。
―確かに、障害により特性や症状は異なりますね。障害・症状別にコースが分かれていると、利用者も門をたたきやすくなるように感じますが、障害別に利用できるメリットは何でしょうか?
まず、「自己開示」がしやすくなります。障害のある方の中には、障害を開示することや悩みを相談することをためらう方もいらっしゃいます。
ところが、同じ障害のある方同士であれば、共感が得られやすいので障害のことを話すことに対するハードルが少し低くなります。
例えば、統合失調症の代表的な症状である幻聴や幻覚の話は、うつ病のある方には理解されづらいかもしれません。ところが、統合失調症のある方からは「私もその経験ある」というような反応が返ってくることもあります。
②自己理解につながる
障害・症状別のコースは自己開示、自己理解につながります
―自分のことを話すのは勇気のいることですから、話しやすい環境があると安心ですよね。
自分のことを話せる環境では、周りの方が話す成功体験や失敗体験を直接聞くこともできますので、それも大きなメリットですね。
自分の経験と照らし合わせることで、どうすれば悩みを解決できるのかといった対策の発見や再認識にもつながります。
次第に、お互い相談にのったりアドバイスをしたりする場面もできてくるんですよ。
このような利用者同士の知恵と経験をシェアしながら学べる環境づくりは、座学だけは難しいんですが、働く準備をするためには、利用者同士のコミュニケーションから学んだり、主体性をもって取り組んだりすることが何より大切だと思っています。
この自然に高まった「ピアの力(仲間の力)」で、自己理解をどんどん進めていただけたら嬉しいですね。
③障害に特化した専門的な支援
支援員は安心できる場になるような環境づくりをしています
―利用者が自然な気持ちで参加できる雰囲気が伝わってきますね。支援員の皆さんは、その雰囲気を作るために何か工夫しているのでしょうか?
場の雰囲気を作っているのは利用者の皆さんです。そのためには、自己開示しながら様々なことを話し合える場が必要ですから、支援員はインプットするということ以上に「話し合いのテーマを設定する」ということに重きを置いています。
あとは、利用者の皆さんがリラックスして過ごせるように、安心できる場になるような環境作りをしていますね。
―テーマについて利用者同士が話し合うということですが、そのテーマは、どのコースも同じなのですか?
先ほど述べた「自己理解を深める」ことは、どの障害や症状も共通の課題になりますので、同じテーマになっています。
でも、障害や症状による悩みや特性は異なります。時には、今までの生き方や生活背景にも関わってくることがあります。そのため、「障害理解を深める」ための取り組みでは、障害ごとにテーマを設けています。
このように自分の障害に特化して深堀りできるというのも、障害別コースだからこそできることだと思います。
―では、具体的な取り組みを障害や症状別にお聞きしたいのですが、発達障害の場合はいかがですか?
発達障害の方はご自身の感覚や考え方が多数派と異なることで生きづらさを感じることが多いようです。自分らしさを大事にしつつも、社会にどのように適応していくかをディスカッションしています。具体的には、「感覚過敏」といった発達障害の特性を取り上げることや、人生の山谷を振り返るようなワークを実施します。
―うつ病はどのような取り組みをしていますか?
うつ病は、主に症状について話し合うことが多いですね。体調がすごく悪くなったときの様子やその原因に言及しながら、ストレスコーピングや認知行動療法などの対処法、そして予防策にも話を広げていきます。
また、服用している薬について話が及ぶこともあります。多くの方は、主治医が処方する薬を服用していますが、薬には様々な種類があり、効果も少しずつ異なることを知った上で服用している方は少ないんです。
薬に対しても、もう少し理解を深められれば、治療に対して積極的になれるのではないかと考えています。ですから、どのような薬があって、こんな症状だからこの薬が適しているんだということを、利用者同士の治療体験を交えながら学んでいますね。
―同じ症状と向き合っているからこそできることですね。
次は、統合失調症の理解を深めるために取り組んでいることを教えてください。
統合失調症も、うつ病と同じように症状を取り上げながら、対策や予防策について話し合っています。
ただ、統合失調症にはうつ病と違う点があります。それは、うつ病は働きすぎが原因でなるなど社会人になって発症する方が多いのに対し、統合失調症は10代で発症する方が多いことです。
若くして統合失調症を発症したことで、周りの方とは違う学生時代を送った経験から、より自己開示しづらいという悩みを抱えています。
ですから、統合失調症による症状は決して珍しいことではない、ということをお伝えしながら話しやすい場を作ることが必要なんです。
当事者同士の話し合いを通じて、働くことに対する安心感と自信を持っていただけたら嬉しいです。
―障害や症状により、それほど大きな違いがあるのは驚きです。改めて、障害別に学べる環境の良さを感じますね。では、聴覚障害の場合は、どのような取り組みをしていますか?
聴覚障害は、発症した時期や教育環境、コミュニケーションの手段によって個人差がありますので、個別に対応することも大切にしています。
また、音のある環境についてお伝えしながら、音が聞こえづらい環境や音が聞こえない環境との違いについて話し合うこともあります。
それから、日本語の学習や、筆談や手話などを学ぶことで、コミュニケーションのバリエーションを増やすことにも力を入れています。
―自分の知らない世界を知ることで気付くことや学ぶこともたくさんありますよね。では、難病の場合はどのような取り組みをしていますか?
難病は、多くの方にあまり知られていないということもあり、周りの方に理解してもらう力が求められます。
ですから、まずご自身の病気をよく知っていただくために病気のことを自分で調べ、次にその内容をプレゼンし、最後に当事者同士でそのプレゼンした内容や方法について話し合います。
プレゼンやお互いの意見を聞くことを通して、自分で理解する力、そして相手にうまく伝える力を高めていただけると良いですね。